◇受賞日

2025/4/5

◇受賞名

基礎物理学ブレークスルー賞

◇業績名

質量生成の対称性破れのメカニズムを実証するヒッグス粒子の特性の詳細測定、強い相互作用をする新粒子の発見、稀少プロセスと物質 ―反物質非対称性の研究、最も短い距離と最も極端な条件での自然の探究

◇概要

米グーグルの創業者らが出資するブレークスルー財団が主催する自然科学の国際的な学術賞「ブレークスルー賞」が4月5日(日本時間4月6日)に発表され、基礎物理学部門で、欧州合同原子核研究機関(CERN)にあるハドロン衝突型加速器(LHC)で行われている四つの国際共同実験(コラボレーション)が受賞しました(ブレークスルー財団のプレスリリース)。国際共同実験の一つATLAS実験には神戸大学の研究者もこれまで多数参加しています。

今回受賞したLHCの国際共同実験はALICE、ATLAS、CMS、LHCbの四つです。周長27kmのトンネルの中を時計回りと反時計回りに陽子ビームが回るLHCの四つの衝突点でそれぞれ実験を行っています。計70か国以上から数千人の研究者が参加しており、2024年7月までのLHC Run-2データに基づいて執筆された論文の成果が評価されました。神戸大学からも過去のメンバーも含む22名のスタッフ?大学院生が受賞者としてリストされました。

授賞理由は「質量生成の対称性破れのメカニズムを実証するヒッグス粒子の特性の詳細測定、強い相互作用をする新粒子の発見、稀少プロセスと物質―反物質非対称性の研究、最も短い距離と最も極端な条件での自然の探究」です。

ATLAS実験とCMS実験は2012年に独立にヒッグス粒子を発見し、私たちの宇宙は"無"ではなく、ヒッグス場と呼ばれる目に見えない場で満たされていることが明らかになりました。これにより、弱い力を担うW粒子やZ粒子がヒッグス場との相互作用によって質量を得るという「ヒッグス機構」が実証され、電磁気力と弱い力の統一理論の正しさが確認されました。理論を提唱したピーター?ヒッグス博士、フランソワ?アングレール博士は翌2013年、ノーベル物理学賞を受賞しています。

ATLAS実験は直径25m長さ46mの大型検出器ATLASを使う実験です。四つの国際共同実験の中でも最大規模で、世界40カ国からの研究者約3000人で組織され、日本からは神戸大学のほか、高エネルギー加速器研究機構、筑波大学、東京大学、お茶の水女子大学、早稲田大学、東京科学大学、東京都立大学、信州大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の13の大学?研究機関が参加して、ビッグバン直後の宇宙を支配していた素粒子の研究をしています。神戸大学からは現在約10人が参加し、粒子検出器の開発やデータの解析を行っています。

神戸大学は1995年のATLAS実験計画開始時から参加しており、これまでTGCミューオン検出器の開発や運転、初段ミューオントリガーシステムの開発や責任者の輩出など際立った貢献をしてきました。

ヒッグス場の性質をさらに深く理解し、その背後に潜む新たな物理法則を探るためには、今後蓄積されるデータ、特に2030年に開始予定の高輝度LHC実験による大量のデータが不可欠です。ATLAS共同研究チームはブレークスルー賞の受賞を祝う一方で、すでに先を見据えています。LHCの第3期運転期間が現在進行中であり、かつ高輝度LHCのアップグレードに向けた準備も急速に進んでいます。神戸大学の約10人の教員と大学院生からなるチームは、2030年の運転開始時に衝突率が10倍になる高輝度LHCのためのミューオンシステムとトリガーDAQの開発を主導しています。

 

◇所属?職?氏名

理学研究科?教授?藏重久弥

理学研究科?教授?山﨑祐司

理学研究科?准教授?前田順平

他19名(退職者?大学院修了生含む)

 

◇関連サイト

?2025 Breakthrough Prize

?ATLAS Press statement

?ATLAS Official Website

?高エネルギー加速器研究機構によるプレスリリース

?理学研究科物理学専攻 粒子物理学研究室

(研究推進部研究推進課)

(理学研究科事務課総務係)