桜の花が春爛漫に咲き誇るなか、今日、神戸大学に入学される皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。また、保護者の皆様、ならびに、ご家族の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。
本日、皆さんの輝かしい希望に満ち溢れた笑顔を拝見しながら、入学式を挙行し、ご父兄の方々と共にお祝いできることを、学長として大変うれしく思っております。

この春、神戸大学には、学部に2,645名、大学院博士課程の前期課程に1,265名、後期課程に330名、法科大学院と経営学 専門職 学位課程に138名、編入?転入学生として116名、海外からも254名の皆さんが、入学され、計4,494名の学生さんを迎えることとなりました。
さて、この度、皆さんが入学された神戸大学は、自然に恵まれた六甲の山並みと光り輝く瀬戸内の海に囲まれ、異国情緒溢れる港町神戸に位置し、1902年に創立した歴史と伝統のある、素晴らしい総合研究大学です。開学以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、「真摯?自由?協同」の精神のもと、普遍的価値を有する「知」を創造するとともに、人間性豊かな指導的人材を養成することを、使命としてきました。
これまでに、本学においては、iPS細胞の発見によりノーベル生理学医学賞を受賞された医学部卒業生の山中伸弥博士や本年「藍を継ぐ海」で直木賞を受賞され今日ご講演頂く理学部卒業生の伊与原 新(いよはらしん)様をはじめ、数多くの方々が輝かしい業績を残してこられ、教育?研究機関、政治経済界、法曹界、医療界、文壇など様々な領域において社会に多大なる貢献をされてきており、本学にとって大きな誇りであります。
本学は、今年の4月からシステム情報学部と医療創成工学科が新たに設置され、11の学部と15の大学院、法学と経営学の二つの専門職大学院、経済経営研究所、医学部附属病院、さらに多くの教育研究に関わるセンター群と、複数の図書館、附属学校で構成されています。
キャンパスは、4つの地区からなり、六甲台地区に、人文?人間科学系、社会科学系、および自然科学系の各部局、楠地区に医学研究科、医学部、および附属病院、名谷地区に保健学研究科、そして深江地区には、日本でも数少ない海を科学する海事科学研究科があります。学術領域として、人文?人間科学系、社会科学系、自然科学系、および生命?医学系の4つがあり、それぞれの領域が優れた特色と強みを持ち、お互いに密な連携をして、新規性の高い独創的、学際的な教育?研究を行ってきており、国際的にも高い評価を得ています。皆さんが、今、おられるポートアイランドは、医療を中心とした300以上の様々な企業が集積しており、神戸医療産業都市地区として発展してきています。この地区は本学の5つ目のキャンパスとして、近年、統合研究拠点、神戸バイオテクノロジー研究?人材育成センター、国際がん医療?研究センター、メドテックイノベーションセンター、バイオリソースセンター、統合型医療機器研究開発?創出拠点、神戸大学発のベンチャー企業が立地しており、この春には新たにバイオものづくり共創研究棟も竣工し、神戸大学の先端的研究開発拠点が着々と整備され、科学技術の革新的研究基盤として『デジタルバイオ&ライフサイエンス?リサーチパーク』が形成されています。さらには、兵庫県、神戸市をはじめとする地元自治体、企業との産官学連携により世界に誇れる最先端技術の研究?開発を進めるとともに新しい価値を創造し、社会実装に取り組み、地域における新たな産業創出に向けて神戸大学発のスタートアップの育成に努め、社会に貢献し、地域に根差し世界に誇れるグローバルイノベーションキャンパスの構築を目指しています。また、スーパーコンピュータ「富岳」、Spring8、ニュースバルなどの先端研究機関、さらには、国内外の多くの大学、医療機関との連携を密にして俯瞰的、かつ長期的な視野に立って基礎科学と応用科学に関する先端的な研究開発を推進し、デジタル未来社会を先導し、豊かで幸せな社会の発展に貢献しています。
一方、大学教育においても、教育のAI?デジタル化が急速に進んでいます。神戸大学では、デジタル化のメリットを活かし、皆さんのニーズに合うような質の高いデジタル教育に向けての整備を進め、時空間の制限のない理想的なハイブリッドキャンパスを目指して、斬新で魅力的な学習?実習機会を提供できるよう取り組んでいます。また、昨今、生成AIが社会に急速に広がり、国家、行政、産業、医療などあらゆる分野の基盤や制度、そして、大学の教育にも影響を与えてきています。一方で、生成AIは情報漏洩、権利侵害、ネット犯罪、偽情報の拡散などの問題を引き起こしています。誤った情報が人々を惹きつけ暴走させたり、誹謗中傷の凶器となるようなことが現代社会であってはなりません。また、AIが作り出す誤った情報や精巧なフィクションは、人に心地よいものを作り上げ、真実や痛みを伴う改革から人々を遠ざけ社会や組織の発展を損なってしまう可能性もあります。AIのようなテクノロジーが強力になっていっても決して万全ではなく、AI時代においては個人個人が自己修正能力と的確な判断力を高め、溢れている膨大な情報を受け取ったあとも熟考し、間違いを見極め、よりよい意思決定に活かしていくことが重要であると思います。大学としても、継続的に生成AIのメリット、デメリットをしっかりと評価するとともに安全な活用に向けて課題を解決し、教育?研究において生成AIと共生?共存していかねばなりません。そのためには、その倫理性、透明性、情報管理などの法的、社会的課題を踏まえて、大学における生成AIや情報の活用のあり方を検討し、ステークホルダーからの信頼性も高めたうえで、未来における教育?研究の質と機能を高めていきたいと考えています。
すでに、先端的なAI技術が、文系理系に関わらず、科学研究の場において急速に広がってきています。昨年のノーベル物理学賞や化学賞の研究分野から見ても科学技術開発においてAI技術は中核的存在となってきています。科学は、先人が築いた知の蓄積のもと学んだうえで自ら新しい仮説を立てて実験や計算をしてそのデータを分析して新しい現象や法則を発見し、技術開発につなげていくことの繰り返しです。しかしながら、昨今では研究アイデアの発案、実験の設計、実施、研究論文の執筆までをAI?ロボットにより自動で行い、科学研究を進めることが可能となってきています。研究分野によって違いはありますが、AIによる膨大な研究データの分析による革新的な研究開発と人間の創造的思考と組み合わせる研究が進んできており、人間とAIの共進化が求められています。
そして、今後、社会がどのように変化しようとも、我々は、人間の頭脳からしか生まれない未知への気高い創造力、思考力、を磨き、人間社会におけるAIの有用性をしっかりと見極め、AIの価値を評価し、的確に活かしていく力を涵養するとともに様々な領域を繋いだデータに基づきAIと人間の相乗的な創造によって新しい価値を生み出し、未知の世界をデザインして、課題解決に挑戦できる能力を養うことが、非常に重要であると思います。
神戸大学では、AI?デジタル社会を担う優秀な次世代人材の必要性が高まっているなか大学として教育の多様性と質の向上に取り組み、社会に貢献していくためにこの春、工学部情報知能工学科を発展させてシステム情報学部を創設し、女子枠15名を含め定員を150名に増やし、多くの学生さんを迎えることができました。本学部では、例年に比べ今年は、女子学生が、28名入学され、約3倍に大きく増えました。ただ欧米に比べて日本においてはまだまだ自然科学系の分野を選択する女性が少なく、理系分野での女性の活躍を本学としても期待しています。また、本学部では高度情報専門人材育成に向けてシステム情報学カレッジ構想のもと反転教養教育プログラムを展開するとともにシステム情報研究科と連携し学部大学院一貫教育を行い、通常、最低9年かかる博士の学位取得を最短6年で可能とするプログラムを構築し、博士課程進学を促しています。
ただ、残念ながら、日本においては、大学院博士課程の学生数が2003年度をピークに減少し、2015年度よりほぼ横ばいで、現在約1.4万人となっており、神戸大学の博士課程学生数も、同様に少し減少し、ここ数年は、ほぼ横ばいです。博士号取得者数も、日本ではほぼ横ばいで、増え続けている米国の約6分の1、中国、ドイツ、英国、韓国と比べても少ない状況であり、国としても大きな課題となっています。昨年の、国の「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」において、博士人材を2040年に2020年の3倍に増やすことが提案されています。本学としても人口が減少する中で国の研究力を支え、社会の発展を先導できる卓越博士人材を理系のみならず文系においても増やすために大学院における教育改革は非常に重要と考えています。そのために、学部大学院一貫教育による修士、博士課程早期修了プログラムの拡充、大学院での経済的支援、多様性のあるカリキュラムと学位プログラムの構築を進めるとともに、産業界等における博士人材の価値への理解を促し、博士取得後、研究者のみならず様々な分野で活躍できる多様性のある魅力的なロールモデルを構築して参ります。
また、それぞれの専門領域とともに多様性を持ち、幅広い視野で持って学び、社会に貢献できる優秀な人材を育成するために、領域横断的な教育を推進し、総合的、複合的な思考力、創造力を養う異分野共創型教育体制の構築にも取り組んできています。その一つとしてこの春、医学部に医療創成工学科を創設し、医学と工学が連携して、医療機器?システムの開発ができる創造力と実践力を備えた医工融合人材を育成して参ります。また、アントレプレナーシップ教育や価値創造教育の体制を充実させており、若い皆さんの自由で独創的な発想を引き出し、そのアイデアを具現化し、起業も視野に入れて社会で挑戦していける基礎的、実践的な知識?技術を早くから涵養しています。
昨年は、パリでオリンピック、パラリンピックが開催されました。日本からも多数の選手が参加され、数々のメダルを獲得し、素晴らしい成績を残されました。ほんの数分、数秒にかける競技もあり、その一瞬にすべてを凝縮して力を出し切る選手の姿を見るたびに彼らの集中力と技の凄さに本当に感動しました。一方で、周囲の人への気遣い、そして感謝の言葉を絶対に忘れることがなく、技のみならず、人間力をしっかり鍛えている彼らにも感心しました。
人が目標を達成できるのは、多くの人にお世話になって成長していくからだと思います。オリンピック選手もパラリンピック選手も、彼らは、多くの人にお世話になりながら、その能力、体型、ハンディなどを踏まえて自らが最適の道を選び、自分を最大限に輝かせる道を究めた人たちであると思います。様々な苦悩や障害を乗り越え、大きな目標をもって一歩ずつ進んで一つの目標に到達していると思います。そして、彼らの多くは、次々と新たな目標をもって今も歩んでいると思います。
皆さんは、これから、新たな目標をもって夢と希望に満ち溢れた大学生活を始められると思いますが、じっくりと学び、考える自由な時間がたっぷりとあるでしょう。このような自由な時間が与えられるときは、今後の人生においてはなかなかないと思います。この貴重な時間を是非とも大切にして自分にとって有意義に使い、勉学、課外活動、ボランティア活動など、自分が描いている大学生活を悔いのないよう思う存分謳歌してください。自分の興味、自分の能力、自分の個性、置かれた環境など人それぞれ違うと思いますが、それら様々なことを踏まえて自分を最大限に伸ばせる道を考えてください。そして、自分の将来において何を最終目標にするかじっくり考え、一度しかない人生において自分を最も輝かせる道を選択してほしいと思います。今、学部、大学院に進むうえで抱いている学問、科学への好奇心と情熱を失わず、自由な発想を大切にし、多面的、長期的視野に立って流行だけを追うのではなく、人とは違う、人が気づいていない自分が面白いと思う研究、面白いと思う学問を見つけてじっくりと打ち込んでほしいと思います。決して、踏みならされた安易な道を選ばず、未踏の困難な道を選ぶことの方が、そののち得られる価値はきっと大きいと思います。1を5にするより、0を1にする喜びの方がはるかに大きいと思います。また、決して自分の専門領域だけにこだわらず、多岐にわたる先端研究や教育に触れるとともにグローバルな機会を増やし、自分とは異なる価値観や文化を持った、様々な人の考えや行動を受け入れ、コミュニケーション能力や協調性、世界的な広い視野と知識を身につけ、物事を俯瞰して自分の研究を極め、傑出した新しい技術や価値を創造し、国際競争と多文化共生が進んでいくボーダレスな未来社会に貢献できるよう成長して頂きたいと思います。その過程で、様々な失敗や苦難があっても、将来の自分の成長に必ずつながることを信じて、それを乗り越えていってください。点として磨かれた能力や知識の積み重ねは、将来、必ず線としてつながり、さらに面として大きな力を発揮します。また、今の自分のどこかに弱みがあってもそれを克服して、壁を突き破り、ほんとうに自分のしたいことをあきらめず前に進んでいってください。途中、何かに行き詰まれば、まず、自分のものの見方を変え、そして人を頼ることです。そのためにもできるだけ多くの友を作ってください。必ず誰かが手を差し伸べてくれます。神戸大学も、いつも皆さんを支えながらともに歩んで参ります。是非大きな志と情熱と信念と勇気をもって目標を見失わず、自分が最も力を発揮し、輝ける道に時間とエネルギーを集中し、限りなく挑戦していってください。大きな志は、自分の能力を超えて人間をきっと偉大にすると思います。
神戸大学には、全学的な同窓会組織としての校友会があります。校友会は、在校生、教職員、卒業生、保護者の方々などのステークホルダーが、それぞれの領域の垣根を越えて交流し結束を高め、One Kobe Familyとして、生涯にわたり皆さんの成長と神戸大学の発展を支援して参ります。今日から皆さんは、校友会の一員です。皆さんや、これまでの卒業生を含めた多くのステークホルダーが、強い愛校心と誇りをもって結束することが、神戸大学の発展にとって大きな力となることを、どうか心にとめておいてください。
今、神戸は、街の再開発が急速に進んでおり、この4月からは神戸空港に国際チャーター便が就航し、2030年頃には定期便が就航し本格的な国際空港となる予定です。また、今月13日からは、約6か月間、大阪で万博も開催され、神戸の街も活気に満ち溢れてきており、魅力ある国際都市神戸、大学都市神戸として、大きく発展してきています。
神戸大学は、この神戸の街に根差しともに発展し、国際色豊かで、多文化が共生し、全ての人が学び易い、すべての人に優しい、ダイバーシティ&インクルーシブキャンパスを目指しています。これから、皆さん、一人一人は、この大学都市神戸、そして神戸大学の主役です。海と山に囲まれ自然に恵まれた立地を背景に素晴らしい教育?研究環境を備えた、そして発見と感動と創造に満ち溢れた神戸大学のキャンパスで、悔いのない学生生活を楽しみ、一時を無駄にせず、しっかりと自分の学びを深め成長していってください。
神戸大学は、いつも愛情と優しさをもって、君に寄り添い、君とともに未来を創ります。
最後に学長として、皆さんが健康に十分留意され、さまざまな情報が氾濫し、急速に変化し、複雑化する社会において神戸大学生としての気高い品格と誇り、そして高潔な倫理観と道徳観をもって自らを律し行動し、これからの学生生活が皆さんを真に輝やかせるものになることを祈念し、私のお祝いの式辞とさせていただきます。
令和7年4月4日 神戸大学長 藤澤 正人